未来へのGift Ward

幸せな未来へつながる言葉、 夢を叶える自分を創る言葉、 言霊を人生に活用して豊かになる言葉等を、 詩や物語やエッセイに変えてお届けします。

【泣き虫ドラゴンの冒険記】第20話~第24話

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主人公=泣き虫ドラゴン
(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)
 

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【第20話】再会

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「 わぁん だぁっ
ハァッ!
ワン ダア ブラ
バン バン バン 」
 
泣虫ドラゴンの耳に、どこからか、力強いリズムが聞こえてきました。
 
「 ワン ダア ブラ
ダン ダン ダン! 」
 
この地を揺るがすような響き。
泣虫ドラゴンの体が自然にリズムを感じ、ハッと我に返りました。
 
その時です。空から鳥の鳴き声が聞こえました。
 
ギワッというけたたましい声と共に、
ダチョウほどもある奇怪な鳥が、翼を赤々と燃やして空を舞い、
泣虫ドラゴンの頭の上をぐるぐると旋回(まわ)り始めました。
 
痛いほどの氷のつぶてを顔面(かお)に受けながら、
泣虫ドラゴンは、目を覚ましました。
 
 
「……ああッ、ゴリラの先生、おこしてくれてありがとう。
呼び鳴き鳥さん、助けてくれて、ありがとう」
 
そう言うと、泣虫ドラゴンは、一歩ずつ、前に進みはじめました。
呼び鳴き鳥の翼の炎のおかげで、氷ついた手足が溶けだしたのです。
炎の明るさで視界も広がりました。
 
 
泣虫ドラゴンは、進んでいくうちに、ふと、前の方に、
誰かがたたずんでいるのを、目にしました。
もう迷いませんでした。
 
 
泣虫ドラゴンは、ゆっくりと近づいて行きました。
 
ズンズン。
ズンズンヒタ、ズン。
ズンズンズンズンズンヒタ、ズンズン。
 
泣虫ドラゴンは、目の前まで来ると、驚いて、目を丸くしました。
そこにいたのは、あの精霊のキリマだったのです。
 
この間泣虫ドラゴンが出会った時に目にした、
神々しいほどに光輝くチーターの姿は、
どこにも、見あたりませんでした。
 
変わりにそこにいたのは、
ただ、震えて、泣きながら途方にくれたであろう、
氷ついた一匹のチーターの姿でした。
 
「キリマ……本当に、君なんだね」
 
泣虫ドラゴンは、約束を果たすため、ゆっくりと背筋を伸ばして、
歯をカチカチとならし、アゴの運動をしました。
そして、最後に大きく深呼吸を一つ。
 
どうやら、歌う準備が、整ったようです。
 
 

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【第21話】泣き虫ドラゴンの歌

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ふたたび、泣き虫ドラゴンを、濃い霧がおおいました。
 
その時、かすかな風の音がしました。
いえ、それは泣き虫ドラゴンの声でした。
 
いよいよ歌が始まったのです。
 
遠くから、ドラミングを終えたばかりのゴリラの先生と、
地に舞い降りた呼び鳴き鳥が、かたずを飲んで見守っています。
 
泣き虫ドラゴンは、空から、メロディを捕まえようとしているようです。
空を仰いで、ハミングを続けます。
 
ハミングは、あらゆる音を奏でながら、変化し、
流れ星のように、一瞬の時に、光ながら流れて行きました。
 
 
風のそよぎ
 
霧の舞い
 
舞い上がる翼~
 
 
上昇気流
 
空間の柱
 
行き返り花咲く生命(いのち)
 
星たちの花園~
 
 
きらびやか
 
その一つ
 
その一つぶ
 
その結晶
 
 
彩り
 
 
消えゆく間に~
 
 
泣き虫ドラゴンは、今度は、首をうなだれ、下を向きました。
まるで、チューニングをしているかのように、低い音を奏で始めました。
 
 
草の原
 
 
土の匂い
 
 
地面を転がるフンコロガシ
 
アリ塚
 
土を駆ける足音
 
 
水浴びする獣たちの声
 
サバンナ
 
ジャングル
 
 
暗闇で光る目
 
月光を浴びるしなやかなシッポ
 
しじま
 
 
悲しみの奥
 
生命力
 
虚ろの中
 
 
ひしめきあう魂
 
夢見心地と
 
現実的存在
 
 
ざわめき
 
感覚
 
波立ち
 
 
運命
 
高鳴り
 
 
 
響き……
 
天と地の……
 
 
そこで、泣き虫ドラゴンは、一息ついて、ゆっくり顔を起こしました。
どうやら、長く続いたチューニングは、終わったようです。
泣き虫ドラゴンをおおっていた霧も、いつの間にか消えていました。
 
 
泣き虫ドラゴンは、ふたたび、キリマを見つめました。
口元から、あふれ出しそうなメロディを必死でこらえながら……
 
―――やがて、泣き虫ドラゴンの歌声は、堰を切ったように溢れ出しました。
 
 
なめらかで豪快に
 
力強く優しさにあふれ
 
 
光さす美しさと
 
影や闇の手ごたえと
 
 
繰り返す生と死
 
地球の大循環
 
 
泣き虫ドラゴンは、歌いました。
空と地の響き……のままに。
 
 
泣き虫ドラゴンは、歌い続けました。
空と地の響き……の、あますところなく。
 
 

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【第22話】うーん、重たいです

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泣き虫ドラゴンの歌声は、風に乗って空を飛び、
キリマ山をめぐって、木々を伝って森を越え、
水に流れて、遠くサバンナの果てまで、響き渡りました。
 
「ジョルディ~ル」
 
不思議なことに、今まで一度も、
晴れたことのなかったキリマ山の頂きに、
雲間から、太陽の光が射し込みました。
 
そうして、厚く覆われていた雲が、切れ切れに散らばり、
やがて、空に透けて、見えなくなりました。
 
見渡す限りの青空の中に、太陽がまぶしいほど輝いています。
そして、とうとう、氷ついた精霊キリマが、溶けはじめました。
 
 
泣き虫ドラゴンは、キリマの体がすっかり溶け終わるまで、待ちました。
待っている間に、泣き虫ドラゴンは、いつの間にか、眠ってしまいました。
 
 
 
どれくらい時が過ぎたことでしょう。
 
泣き虫ドラゴンが目を覚ますと、一匹の光り輝くチーターが、
泣き虫ドラゴンのお腹の上にのっているではありませんか。
 
「もしもし、キリマさん。
どうしてわたしのお腹の上にのっているんですか?」
 
「どうして? お前が気に入ると思ってね。お気に召さなかったかね」
 
「う~ん。おもたいです」
 
「やれやれ、これくらいで何だ。
お前は、空と大地の響きを手にいれた。
 
それはつまり、空の精霊、大地の精霊、
その他あらゆる精霊の力をあやつることができるということじゃ。
お前はもう、ただの泣き虫ドラゴンではないのだぞ」
 
「わたしは、泣き虫ドラゴンです」
 
「まあ、お前のそんな普通なところが、ワシは好きだがな」
 
そう言うと、キリマは、泣き虫ドラゴンのお腹からひょいと飛び降りました。
そして、泣き虫ドラゴンに背をむけたまま、言いました。
 
「そうそう、泣き虫ドラゴンよ。住みたい沼なら、
今のお前さんなら、すぐに見つけられるさ。
心配せんでも良い。ワシは、もうゆくぞ」
 
 
キリマがそう言い終えた時、
不意にキリマの体が神々しいほどに輝きを増しました。
泣き虫ドラゴンは、まぶしくて、前を見ることができませんでした。
 
 
しばらくすると、その輝きが、だんだんと小さくなっていきました。
そして、もうどこにも、キリマの姿は見あたりませんでした。
 
 

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【第23話】山頂から飛び立つ時

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キリマ山の頂きで、大きく深呼吸する泣き虫ドラゴン。
 
「う~ん」
 
背伸びをすると、背中が空に触れているようで、
とても気持ちが良くなります。
 
太陽の輝きが、泣き虫ドラゴンの心をくすぐります。
すると突然、ジョルディールの心が、ポワンと宙に浮かび上がりました。
 
オレンジ色に輝く球(たま)。
 
これは、たましいと呼んだ方が良いのかもしれませんね。
オレンジ色の球は、すぐに小鳥の姿に変わり、空に向けて飛び立ちました。
 
泣き虫ドラゴンが、歯と歯の間を吹き抜けていく風の音を聞いているわずかな時間に、小鳥は、山を降りて、泣き虫ドラゴンの住む沼を探してきてくれました。
 
 
「なんて便利なんだろう!」
 
ようやく気がついたようです。
 
キリマの試練を乗り越えたことで、泣き虫ドラゴンは、
タマシイを自在に飛ばして、遠くの場所へ行ったり、
遠くのものを見たりすることができるようになっていたのです。
 
住む沼が見つかってホッとした泣き虫ドラゴンの頭に、ふと、
あのもじゃもじゃなタテガミをしたライオンさんの顔が浮かびました。
 
「ライオンさんは、いまごろ何をしているかなあ」
 
無意識に泣き虫ドラゴンは、ライオンさんが住むサバンナの方角へ、
【タマシイの小鳥】を飛ばしていました。
 
 
サバンナのあちこちを飛んでいるうちに、
ついにライオンさんを見つけることができました。
 
驚いたことにライオンさんは、バオバブの木の下で、
傷つき、動けなくなっていました。
どうやら、強いオスライオンと戦って、負けてしまったようです。
 
泣き虫ドラゴンは、いてもたってもいられなくなりました。
傷ついたライオンさんをそのままにしておけば、
きっと死んでしまうでしょう。
 
 
泣き虫ドラゴンは、急いで、山頂から飛び立ちました。
 
 

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【第24話】友の目覚め

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泣き虫ドラゴンは、三日三晩、飛び続けました。
 
背中の翼は、石のように硬くなり、
やがて、しびれてきました。
 
こんな風に、ただ、ひたすら、身を粉にして、突き進んで行く。……
世界中どこを探しても、そんなドラゴンは、見あたらないでしょう。
そう、泣き虫ドラゴンをのぞいては。
 
でも、泣き虫ドラゴンが何か特別な存在なのではありません。
泣き虫ドラゴンは、きっと、自分に価値あるものを、
探し当てることが得意なだけなんです。
 
 
泣き虫ドラゴンは、ついに、ライオンさんを探し当てました。
それは、満月の夜でした。
 
お腹を膨らませたバオバブの木が、月明かりに照らされて、
草原の上に浮かんで見えました。
 
泣き虫ドラゴンは、近づいていき、
木の下で倒れているライオンさんに声をかけました。
何度も何度も。
 
 
ライオンさんは、どんなに呼んでも、返事をしてくれませんでした。
遅すぎたのでしょうか。
泣き虫ドラゴンは、あふれてくる涙を、こらえられませんでした。
 
「ジョルディ~ル。ジョルディール」
 
泣き虫ドラゴンは、鳴き続けました。
 
かつて、カバさんが死んでしまったときのように、
泣き虫ドラゴンの鳴き声は、サバンナ中に、響き渡りました。
 
 
~月明かりに浮かぶ
 
君の面影
 
ここに君はもう
 
いないんだね
 
 
鳴き声は、いつしか、泣き虫ドラゴンの歌声に変わりました。
 
 
~どこへ行ったのだろう
 
君への気持ちが
 
あふれてくる
 
君に会いたくて
 
ここまできたんだよ
 
失うためじゃあ
 
ないんだ
 
 
~願わくばせめて
 
君にこの美しい
 
月明かりの時間を
 
 
泣き虫ドラゴンの歌は、月明かりに照らされたバオバブの木を、
揺さぶりました。信じられない光景でした。
あの太いバオバブの木がゴンゴン首を振るんですから。
 
 
~分かち合いたいんだ
 
バオバブの木の下で
 
月明かりに照らされて
 
尽きぬ歌を
 
君に聞かせたいんだ………
 
 
「なんだか、いい歌だよな……」
 
バオバブの木の下から、声が聞こえました。
 
泣き虫ドラゴンは、目を見張りました。
ライオンさんが首を持ち上げて、
泣虫ドラゴンを見ているではありませんか。
 
 
<続く>