未来へのGift Ward

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【泣き虫ドラゴンの冒険記】第5話~第9話

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主人公=泣き虫ドラゴン
(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)
 

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【第5話】森の中へ

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「お前のしたことは許さぬぞ、泣き虫ドラゴン。お前はカバをだました。
そして、ワシを裏切った。もう友達なんかじゃない。
お前はこの土地から出て行くんだ。二度と戻ってきてはならぬ。
百獣の王の名にかけて、お前を追放する!」
 
ライオンは泣き虫ドラゴンのシッポを踏みつけたまま、そう言うと、
満月に向かって、遠く吼(ほ)えました。そして、高らかに跳躍すると、
勇ましい足音と共に、月明かりの向こうに、消えて行きました。
 
残された泣き虫ドラゴンは、とぼとぼと、サバンナを引き返しはじめました。
もう、この沼では、暮らせなくなってしまったのです。
夜が明ける前に、ここから離れて、できるだけ遠くへ行かなければなりません。
 
ライオンに見つかったら、きっと、食べられてしまうでしょう。
泣き虫ドラゴンは、東に向かって、飛び立ちました。
夜が明ける頃、泣き虫ドラゴンは、とうとうサバンナの東のはずれに着きました。
 
 
そこから東へは、果てのない深い森が続いています。
そして、森の奥深くには、真っ白な雪をかぶった大きな山があり、
その山の頂きが、雲の中まで、伸びていました。
 
泣き虫ドラゴンは、森の中へ、入って行きました。
辺り一面には、見知らない背の高い草が生えていて、
泣き虫ドラゴンの鼻を、しきりにくすぐります。
 
泣き虫ドラゴンは、こらえきれずに、思わず、
 
「ジョルディ~ル」
 
と、鳴きました。
 
すると、突然、頭の上を覆う、木の枝が揺れ出しました。
泣き虫ドラゴンが見上げて見ると、三匹の猿たちが枝にぶらさがって、体を揺らしています。
 
「なんだ、コイツは」
 
「何しに来たんだ」
 
「危険だよ。早く追い出そう!」
 
猿たちは、しきりに声をあげます。
 
「待って、僕は泣き虫ドラゴン。僕は住めそうな沼を探しているだけなんだ。
決して、危険なんかじゃないよ。この声に誓って」
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
それを聞くと、猿たちは、不思議と信じてみようという気持ちになりました。
木の上で、何やら相談が始まりました。
 
泣き虫ドラゴンが、三匹目のハチを口にくわえて飲み込んだ時、
木の上からサルの声が聞こえました。
 
「泣き虫ドラゴン。この森は、果てしなく深いよ。
このまま行けば、たちまち迷ってしまう。
だから、森の精キリマに会うといいよ」
 
 

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【第6話】金色に光り輝くチータ

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猿たちにそう言われると、泣き虫ドラゴンも、
森の精キリマに会って見たくなりました。
 
「どうやったら、会えるの?」
 
「なあに簡単さ。この森の奥深くにあるキリマの山に向かって、
まっすぐすすむだけ。そのうちにキリマの方から姿を現すさ」
 
猿たちは、そう言って枝を揺らしたかと思うと、
いつの間にかいなくなっていました。
 
泣き虫ドラゴンは、更に森の奥へずんずん進みました。
すると、だんだんと背の高い草むらがまばらになってきて、
見通しが良くなってきました。
 
前が急に明るくなり、泣き虫ドラゴンは、
思わず、目をつぶりました。
 
 
気がつくと、泣き虫ドラゴンは、大きなレモンの木の幹に、
鼻をくっつけていました。
泣き虫ドラゴンが、こんな大きなレモンの木を見たのは、初めてでした。
 
見上げると、レモンの実が、たわわになって、枝をしならせています。
そして、不思議なことにレモンの実一つ一つが、光り輝いていました。
その輝きを見ていると、何だか急にお腹がすいてきました。
 
 
泣き虫ドラゴンは、レモンの木の幹に前足をかけ、
背伸びをして大きな口を開けました。
 
パクリ、パクパク。
 
泣き虫ドラゴンは、レモンを一個食べたと思ったら、
あまりのすっぱさに、悲鳴をあげました。
 
「ジョルディ~ル!」
 
泣き虫ドラゴンは、地面にもんどりをうつと、
東の方角へ、転がり出しました。
 
あまりのすっぱさに、泣き虫ドラゴンの硬い体に鳥肌が立ちました。
 
泣き虫ドラゴンは、転がり続けました。
どこまでも、どこまでも。
 
そして、とうとう泣き虫ドラゴンは、キリマの山の麓(ふもと)にたどり着き、
なだらかな登り坂の途中で、目をまわして、ひっくり返りました。
 
 
泣き虫ドラゴンが、気がついた時は、もう夜でした。
月明かりが、うっそうと繁る森の天井のすき間から、差し込んで来て、
木々の葉っぱを、そして、泣き虫ドラゴンを明るく照らします。
 
泣き虫ドラゴンは、起き上がろうとしましたが、
なかなか起き上がれませんでした。
どうしてしまったのでしょう?
 
みると、泣き虫ドラゴンのお腹の上に、
誰かが乗っているではありませんか。
 
首を起こして見てみると、金色に光り輝くチーターが、
お腹の上に座って、シッポを振っています。
 
 

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【第7話】創造の実

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「もしもし、わたしの上にのっているあなたは、誰ですか? 
重たいので、どいてくれませんか」
 
泣き虫ドラゴンは、お腹の上でマブシイほど輝いているチーターに、
そう言いました。
 
「ハッハ。ようやく気がついたか、泣き虫ドラゴン。
ワシに会いたかったのだろう ? 」
 
光るチーターは、
シッポの先をヒュンと泣き虫ドラゴンのアゴの前に持っていき、
チラつかせました。
 
「あなたが、森の精キリマさん?」
 
「皆はそう読んでおるが、なあに、ただのオロカモノじゃよ。
泣き虫ドラゴン、ワシに何が聞きたい?」
 
光るチーターは、そう言うと、
ようやく、泣き虫ドラゴンのお腹の上から地面へ、
ひょいと降り立ちました。
 
やっと自由になった泣き虫ドラゴンは、体をクルリと回転させて、
いつもの姿勢に戻りました。
 
転がったり、ひっくり返ったりを繰り返していたせいか、
起きあがって見るいつもの世界が、とても素敵に思えました。
 
「わたしが暮らせる沼をさがしているのです。
あなたがご存じだと聞いて、探していました」
 
「ワシをさがしていただと? それは思いちがいもいいところだ。
お前がワシを引き寄せたのだ。
あの猿たちも、レモンの木も、レモンのすっぱい味も、
みんなお前が創造した。
そうして、ワシのところまで、お前が勝手に転がってきたのだ」
 
泣き虫ドラゴンは、森に入ってからここまでの道のりを
ふと、思い返してみました。
 
イバラの道とまではいきませんが、泣き虫ドラゴンにとって、
初めての冒険であったことには、間違いありません。
 
「かがやくレモンの実、あれは創造の実だよ。
食べたものは、自由に好きなことを創造できるんだ」
 
 

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【第8話】キリマの試練

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「それじゃあ、僕の暮らす沼も創造できるんですか?」
 
「できるさ。でもお前は、
ワシに会いたいという気持ちが強かった。
だからこうして、ここにいる……」
 
「これから僕は、どうすれば……」
 
「いい質問だ。創造の実を食べたからには、
沼を探すだけではもったいない。お前には、試練を受けてもらうぞ。
お前の声は、魅力的だ。その声をもっと活かすためだ」
 
こうして泣き虫ドラゴンは、
森の精キリマの試練を受けることになりました。
 
 
キリマから出された試練とは、はるか雲の上にあるキリマ山の頂上へ
飛ばずに歩いて行き、そこで待っているものに、
歌を聴かせるというものでした。
 
このままでは、いつまで経っても自分が暮らせる沼には、
辿りつけそうもありません。
 
泣き虫ドラゴンは、
この試練が終わったら沼の場所を教えてもらう約束を、
キリマと交わしました。
 
「なあに、お安いご用さ」
 
という、森の精キリマの軽い返事を聞くと、
泣き虫ドラゴンは、キリマ山のなだらかな坂を登り始めました。
 
 
君は、山を登るドラゴンなんて、聞いたことがありますか?
あの大きくてかたい体で、長い長い登り坂を登るなんて、
きっと すごく根気のいることでしょう。
 
でも、泣き虫ドラゴンは、あきらめませんでした。
 
もちろん、沼のありかは知りたいところだったのですが、
それ以上に、好奇心の向くまま、
気の向くままに生きるのが大好きなドラゴンだったのです。
 
キリマ山を登り始めた泣き虫ドラゴンの目の前に、
一羽の鳥が舞い降りてきたのは、それからまもなくのことでした。
 
この山に住む『呼び泣きの鳥』という、
けたたましい声でなく鳥でした。
 
 

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【第9話】呼び鳴き鳥が泣く時

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ダチョウほどもある大きさ、ふさふさした毛並のお腹、
瑠璃色の羽根を持ったその鳥は、
泣き虫ドラゴンにこう問いかけます。
 
「わたしは呼び泣き鳥。君は、
わたしを泣かせるほどの何かを持っていますか?」
 
「…………」
 
泣き虫ドラゴンは、何と言えばいいのか分かりません。
 
「わたしは泣きたいのです。思いっきり! 
この数十年、わたしを泣かせるほどの方は現れませんでした。
君も、同じですか。君は、何かを持っていますか?
持っているなら、それでわたしを泣かせて下さい」
 
泣き虫ドラゴンは、困りました。そう言われても、何も思いつかないのです。
僕にできることってなんだろう? ただ、鳴くことぐらいじゃないか。
そうだ、よし、ためしに鳴いてみよう。
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
泣き虫ドラゴンは鳥に向かって、鳴きました。
 
「へぇー。君は不思議な鳴き声ができるんだね。
ようし、今度はその声でわたしを呼んでみてくれないか」
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
泣き虫ドラゴンは、呼び鳴き鳥のことを呼んでみました。
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
「うんうん。いいねぇ。何だか君を信じたくなってきたよ」
 
「今度は、このわたしの羽根の音といっしょに鳴いてみてくれないか」
 
呼び鳴き鳥は、泣き虫ドラゴンの目の前で、
瑠璃色の羽根を開いて、しきりに、バタつかせました。
羽根から風が生まれ、泣き虫ドラゴンの顔を吹き抜けて行きます。
 
泣き虫ドラゴンは、羽根に合わせて、鳴いてみました。
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
泣き虫ドラゴンが鳴くと、呼び鳴き鳥がそれに合わせて、羽根を舞わせます。
すると、羽根に合わせて、また泣き虫ドラゴンが鳴きます。
まるで、呼び鳴き鳥の羽根が、歌っているようです。
 
「ジョルディール。ジョルディール」
 
不思議です。鳴けば鳴くほど楽しくなってくるのです。
呼び鳴きの鳥の羽根が、泣き虫ドラゴンの鳴き声に合わせて、
綺麗なウェーブを描きます。
 
泣き虫ドラゴンの鳴き声が、羽根のウェーブに乗って、
風と共に、空をめぐります。
 
その時です。
呼び泣き鳥が、けたたましい声をあげました。
 
瑠璃色の羽根は、たたまれ、ただ、クチバシを空に向けて、
声が何度も上がります。
 
それはまるで、泣いているようでした。
 
 
〈続く〉