【泣き虫ドラゴンの冒険記】第15話〜第19話
主人公=泣き虫ドラゴン
(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)
君は、泣き虫ドラゴンが、
シッポを振ってリズムをとる姿を、想像できますか?
なかなか想像できないかも知れませんね。
何しろ泣き虫ドラゴンにとっても、これが初めての経験でした。
おやおや、ちょっと耳を澄ませてみて下さい。
泣き虫ドラゴンのシッポを打ち鳴らす音が、
だんだんと大きく響いてきましたよ。
だいぶ様になってきたようです。
氷クジラの先生もシッポに大粒の汗を流しながら、
大声を張り上げます。
『 どん ダ!
ダダン どん ゴン!
バン ババン !
どん ダダ だだン! 』
いいぞ、泣き虫ドラゴン! お前のシッポが火を噴いてきた。
その調子だ。波に乗れ、地を揺るがすリズムを刻め!
はじめは無我夢中でシッポを振っていた泣き虫ドラゴンでしたが、
今は、肩の力が抜けて、シッポを振るのが楽しくて仕方がありません。
不思議なことに、泣き虫ドラゴンの頭の上では、
流れ星が絶え間なく、流れはじめました。
星屑が散りばめられて白く明るい夜空に、
シッポ振る泣き虫ドラゴンのリズムが響く瞬間(とき)、
まるで、空という弦を奏でるように流れ星が飛び交います。
「 ウムッ、空が共鳴している。
よし、お前のリズムは、空高く昇り切って、空をつかんだぞ。
今度は、地に潜れ。深く深く。
モグラのように深く。もぐっていけ! 」
氷クジラ先生が、口から氷のツバを飛ばします。
泣き虫ドラゴンは、休みなく、シッポを振り続けました。
深くもぐっていくために。
実際にもぐっていくのは、本人ではなく、『たましい』なんだそうです。
それに、地の底までもぐっていくためには、
地響きするほど大きく地面を揺すらなければいけないそうです。
そう氷クジラの先生が教えてくれました。
泣き虫ドラゴンは、シッポに、ありったけの力を込めました。
風を切り、ムチのようにしなるシッポ。
ズシン、という音が、辺りに響きます。
もう一回。
更に、一回。
地を這うような、地響きが、だんだんと大きくなっていきます。
『 いいぞ、泣き虫ドラゴン。
今度は、シッポに【タマシイ】をこめて打て。
そして、打った瞬間に、
シッポからお前の【タマシイ】を解き放つんだ。
深く、深く、もぐらせろ! 』
氷クジラ先生は、興奮して、頭の氷を溶かしながら、叫びます。
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【第16話】シッポの先に輝く球
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泣虫ドラゴンの耳に、鳥たちのけたたましい鳴き声が、
聞こえてきました。
それが、やがて、獣たちの遠吠えに変わりました。
泣虫ドラゴンのシッポを打ち鳴らす地響きと共に、
獣たちの遠吠えは、雄叫びに変わり、それが、物凄い数の大合唱となり、
泣虫ドラゴンの背中に、せまってきました。
その時です。
泣虫ドラゴンの振り下ろしたシッポの先が、まぶしいほどに輝き、
オレンジ色の光の球が現れました。
時が止まったかのように、何もかもがスローモーションになり、
獣たちの声さえ、聞こえなくなりました。
泣虫ドラゴンは、自分のシッポの先に輝くオレンジ色の球を、
しばらく、見つめました。
懐かしい輝き。
懐かしくて……そして何だか、親しみ深いその輝きに、
思い出のヒモがほどけていきました。
泣虫ドラゴンは、自分を写し出した不思議な鏡を見ているかのようでした。
その鏡の中に、ありとあらゆる自分が映し出されました。
ああ、今まで忘れていたこと。
本当は分かっていたこと。
泣虫ドラゴンは、シッポに灯ったオレンジ色の輝きを見つめながら、
自分を丸裸にしていく、それはつまり、自分を食べちゃう感覚でした。
まるごと、飲み込んで、噛み砕いて、味わって……
その後時間をかけて、お尻から出して、自分の形に戻していく。
そんな行為が終わった後には、もう泣虫ドラゴンには、
シッポで輝くオレンジの球をどうすればいいのか、
痛いほど分かるような気がしました。
泣虫ドラゴンは、大きく深呼吸すると、
目を閉じて、鋭く、シッポを降り下ろしました。
すぐさま山をも揺るがすような地響きがして、
オレンジ色の光の球が、物凄い勢いで地面に吸い込まれていきました。
泣虫ドラゴンの意識は、いつの間にかオレンジ色の光の玉に宿って、
一緒に、深く深く、もぐっていきました。
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【第17話】氷クジラがとける時
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土の中で、泣虫ドラゴンの【たましい】は、
オレンジ色に輝くモグラの姿に変わり、掘り続けました。
途方もない闇の中を、ひたすら掘り続けるなんて、
それはもう、何度もくじけそうになりました。
弱音だって、10万回は、吐きました。
それでも泣虫ドラゴンは、掘るのをやめませんでした。
泣虫ドラゴンは、世界で一番忍耐強いドラゴンだったのかもしれませんね。
そして、とうとう、根気よく掘り続けているうちに、
地底のマグマまで、たどり着くことができました。
きっと、君の応援がなかったら、泣虫ドラゴンは、
くじけてしまったかもしれません。
泣虫ドラゴンは、オレンジ色に輝くモグラの姿で、
その輝きが見えなくなるほど、泥まみれになりながら、
果てしなく続いていた土の壁を突き抜けました。
崩れ落ちていく土と一緒に泣虫ドラゴンは宙に放り出されると、
落下していくその先には、広大な赤い海が見えて、
凄まじい熱気が、立ち昇っていました。
落ちていくスピードに目がマワリ、気を失いかけた泣虫ドラゴンは、
最後に一声鳴きました。
「ジョルディ~ル」
気がついた時、泣虫ドラゴンは、湖の岸辺にいました。
そして、目にしたものは、朝焼けに染まった湖が、溶けていく光景でした。
氷クジラの先生も、シャーベットみたいに溶けてしまうと、
代わりに湖を泳いでひょっこり現れたのは、
一頭の背が高くて、逆三角形のゴリラでした。
ゴリラは、岸に上がると、泣虫ドラゴンの前にやってきました。
『泣虫ドラゴンよ。本当によく頑張ったな。
今まで誰も身につけることができなかった地の響きを、
お前は、ものにしたんだ。胸を張るがいい。
私は長い間、キリマの呪文で氷の湖から出られぬ氷クジラとして、
生きてきた。
いつか私を解放してくれる者が現れることを信じて』
ゴリラの目に、涙が浮かびました。
『泣虫ドラゴンよ。さあ、いけ!
最後の試練に挑むんだ。
これだけは、忘れずにおくがいい。
お前は、もう、全部(すべて)を持っている。
さらばだ! 』
ゴリラに戻った先生は、ウッホッホッと、ドラミングしながら、
泣虫ドラゴンを見送ってくれました。
泣虫ドラゴンは、最後の試練に向けて、山を登りはじめました。
太陽が、ちょうど泣虫ドラゴンの鼻先を、
越えて行こうとしていました。
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【第18話】キリマ山の頂上
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太陽が真上に昇る頃、泣虫ドラゴンは、
とうとう、山の頂きにたどり着きました。
その土地は、スッポリと雲の中に隠れていて、
太陽の光が射さない場所でした。
ひっきりなしに吹く風が、霧を激しく流しています。
泣虫ドラゴンは、そんな霧がとぎれた時に見える、
わずかな視界を頼りに進みました。
ふいに、泣虫ドラゴンの頭の中で、キリマの声が、こだましました。
「最後の試練は、キリマ山の頂上へ行き、
そこで待っているものに、歌を聴かせることだ」
泣虫ドラゴンは、絶え間なく流れて行く霧に目をこらしながら、
つぶやきました。
「こんなに寒くて凍えそうなところで、誰が待っていると言うのだろう?」
踏みしめる地面は、硬い万年雪でおおわれて、凍っていました。
ようく目をこらして見ると、ここは、広々として、
一面真っ白な円い形をしています。
泣虫ドラゴンは、身体全体に、
少しずつ氷の粒がはりついてくるのを感じながら、
必死に、待っている者を探しました。
待っている者とは、泣虫ドラゴンが歌を聴かせてあげる者のことです。
果たして自分にどんな歌が、歌えると言うのだろう?
泣虫ドラゴンには、
自分にはとうてい待っている者を喜ばせる歌なんか出てこない気がしました。
待っている者に会って、感じるままに歌うことが、
今の泣虫ドラゴンにとっては、
大岩を動かすことのように、難しく感じました。
そう、それもそのはずです。
泣虫ドラゴンの頭から背中へと、
うすい氷が張り巡って行こうとしていました。
このままでは、泣虫ドラゴンは、氷ついて、動けなくなってしまうでしょう。
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【第19話】沼までたどり着いたイキサツ
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泣虫ドラゴンは、気力をふりしぼって、何とか動く手足を動かしました。
もう泣虫ドラゴンの頭の中には、考える力が残っていませんでした。
だんだんと、動きが止まり、開いていた目が、静かに閉ざされました。……
気がつくと、泣虫ドラゴンは、森の中の沼で、悠々と泳いでいました。
良く晴れた気持ちのよい朝でした。
友達のカバさんとライオンさんが遊びに来てくれました。
泣虫ドラゴンは、さっそく、カバさんの大きな歯を
シッポの先で丹念に掃除してあげました。
その後、ライオンさんのもじゃもじゃのタテガミを、
自慢の歯で、といであげました。
それから泣虫ドラゴンは、カバさんとライオンさんと
夜明けまで語り明かしました。
カバさんは、河の中で知り合った白イルカや、
カバさんのお腹の中に住んでいるというパクリウオという、
ぶよぶよで骨のない魚のコトを話してくれました。
ライオンさんは、メスライオンとの初恋の話や、
今まで十頭のオスライオンと戦って、
一度も負けなかったことを話してくれました。
最後に泣虫ドラゴンが、この沼までたどり着いたイキサツを
話しはじめました。
空には大きな満月が浮かんで、星の瞬きが、夜空を埋め尽くしていました。
泣虫ドラゴンは、長い間話していましたが、
不意に途中で、言葉をつまらせてしまいました。
そうです。キリマ山の頂上にたどり着いて、
必死に待っている者を探し始めてからのことです。
「ええっと、なんだっけ……その後ボクは……?」
泣虫ドラゴンが考えこんでいたその時です。
目の前の景色が大きく揺れてかたむいたような気がしました。
〈続く〉